初心に返る

志賀島から福岡湾ごしにみる脊振山系


森林や山林は、普段目にする景観の一つです。
しかし、そこでの仕事は、人目に触れないので具体的にイメージするのは難しいでしょう。
最近は、ユーチューブ等で、お仕事動画を簡単に観ることができます。しかし、ヤマ仕事の動画のほとんどは伐倒・伐採といった派手なシーンに偏っているように感じます。

伐倒・伐採は林業のサイクルでは収穫にあたります。
林業では収穫までの養生期、つまり植栽から伐採までは50年以上の長期に亘ります。
そして、この間に行う管理作業が森林(ヤマ)の良し悪しを決めます。
一般にはあまり知られていないヤマでの仕事を二三紹介してみます。

1.植え付け

森林を伐採した跡地に新たに苗木を植える作業です。
平地の苗畑で育てた苗木(写真ではスギ)を山に上げて、現場で根切りをします。
そして、鍬で斜面を掘り、苗木を植えていきます。少しコツが要りますが、慣れてくれば一日で200本程度を植えることができます。 
造林(ぞうりん)ともいい、ここから新たに人工林を仕立てるわけです。 なお、作業時期としては晩秋~早春、厳寒期を避けて行います。

2.下刈り
雑草木に覆われた造林地
造林の初期段階では、植栽木よりも雑草、雑木類の成長が旺盛です。 そこで、植え付け当年から5年程度は雑草木の刈払い(草刈り)が欠かせません。
苗木の「下草を刈る」意味で、この作業を下刈り(したがり)と呼びます。 
一般的に夏期に行うため近年の酷暑下では、つねに熱中症の危険が伴い、それに加えてスズメバチの襲来もあり気が抜けません。
ヤマの仕事のなかでは、初心者・ベテランを問わずに一番過酷な作業です。
スズメバチの襲来も、と書きましたが、時にはノウサギが跳びだしてきたり、カブトムシが肩にとまっていたり、と厳しい作業の合間に気が和むこともあります。 

3.除伐
たくさんの雑木の生えた造林地
下刈り期間が終わった後の造林地では、雑草の心配はなくなります。 しかし、雑木は相変わらず植栽木と競うように成長します。
この雑木を伐る仕事が除伐(じょばつ)です。 植え付け後、10年前後で行うのが一般的です。
背丈を超える植栽木の間を伐り進む


除伐の終わった造林地です。実にすっきりしました。

かつては、下刈りには造林鎌(大型の鎌)、除伐では鉈と腰鋸を使用していました。
(私が若いころは、造林鎌を器用に扱うベテランの方をまだ見かけました)
現在は主として刈払い機と小型のチェーンソーが標準ツールとなっています。動力機械を用いて効率は上がりましたが、人力主体であることは今も変わりません。

ちなみに一連のヤマの仕事のことを「森林施業」(しんりんせぎょう)といいます。施業(せぎょう)とは他の業種にはない林業独特の言葉です。
林業では自然に委ねながらも、折に触れて森林に働きかけを行います。「業(わざ)を施(ほどこ)す」とは自然と融合した思想のように感じます。

福岡演習林では、近年は相対的に造林面積が小さくなっており、また、旧来の請負事業者が引退したため、技術の継承も兼ねて直営での管理作業が増えました。
造林地をつぶさに見て、手ずから作業すれば、その森林の未来形をイメージしやすくなります。外注中心の頃は、知らず知らずのうちにそれを忘れていました。
初心に立ち返り、ヤマと真摯に向き合うことの大切さを実感する今日この頃です。
(2025.1.22 D.O.)
 

イノシシたちの争い?

演習林では、普段は人間を警戒してあまり姿を現さない生き物たちを記録するため、林内にセンサーカメラを設置しています。先日カメラ内の電池とsdカードの交換に行き、データを確認したところ興味深いものが写っていました。


2か月程前の6月22日、早朝の5時40分頃です。4頭?のイノシシがなにやらぐるぐる回っています。画面の左下側の水場は、動物が体のダニや寄生虫を落とすために泥浴びをする場所、「ぬた場」と考えられる場所です。

 泥浴びの場所を取り合っているのか、はたまたじゃれているだけなのか、色々な想像ができます。普段は畑や道を荒らす害獣ですが、こういった日常の一コマを見ると、少し微笑ましい気持ちになるかもしれません、、、

                           山内(耕)

酷暑~人も植物も~

 暑い日が続きますが、加えて今年は降雨が少ないような気がします。人間にとってももちろん暑さは辛いものですが、最近は構内の植物にも影響が出始めているようです。。。

芝生や葉が枯れているのが分かるでしょうか。毎日35度前後の気温が続き、かつ雨が降らなければ、当然植物もこうなります。

みなさんも水分と塩分のこまめな補給、適度な休憩を忘れずにとりましょう。

                            山内(耕)

夏と虫捕りと遺伝子

  福岡は太陽が3つも4つもあるかのような暑さが続いています。これほど暑いと九州も亜熱帯気候になってしまうのではなかろうかと気がかりです。そうなれば、生き物の顔ぶれもだいぶ変わってくることでしょう。

 最近、福岡演習林はとある研究プロジェクトをサポートするため、演習林内でセミとクワガタ類を採集することになりました。全国的にセミとクワガタ類の遺伝子を調べることで、各地の個体群の遺伝的多様性を明らかにし、生物の保全に役立つ知見を得ることが主な目的のようです。


 このプロジェクトで、私たち技術職員は虫捕りして試料を集める役割を担うことになりました。演習林の中でコナラやクヌギのある林を見みつくろって、捕虫網やライトトラップ(夜間に灯火で虫を集めるもの)で採取を行っています。



樹液が出る場所にはスズメバチも集まるので注意

 プロジェクトリーダーから教わった方法を参考にして、廃品のクリアファイルや金網、ゴミ箱を使ってライトトラップをつくってみました。無骨な作りですが上出来です。

廃棄物を使って作ったライトトラップ



 一方、近年はナラ枯れの流行が著しく、今年も多くのコナラやクヌギが枯れゆくのが観察されています。こうした病虫害がクワガタにはどのような影響があるのでしょうね。


樹皮の厚いアベマキの樹もこのありさま



夕方、ライトトラップを樹上に仕掛ける。紫外線を出して昆虫を誘引する。



翌朝、ライトトラップを回収します。


クワガタだけが捕れるわけでない


 この採取作業では、子供の頃に朝早くクヌギ林にクワガタやカブトムシ捕りに出かけていった時の高揚感を久しぶりに感じることができました。一方、ライトトラップではクワガタだけが集まるわけではなく、様々な甲虫、ガやセミ類も入ることがあります。一日中網を振り回すことに比べると、トラップはお任せできることが楽でいいですね。


幸運にも素手で捕れたヒグラシ


 セミ類ではヒグラシを採ることが目標ですが、ヒグラシは勘が鋭い上に素早くて捕まえるのは中々困難です。このように特定の生き物を対象とする調査をすると、今まで知らなかったその生き物の特徴や魅力に気付かされて益々興味を惹かれます。

 今年も暑い夏ですが、生物たちの移り変わりはゆっくりでも着実に進んでいるようです。残りの期間で採集コンプリートを目指します。


2024/8/8 TN


視線の先に

 4月下旬、林内を歩いていると、ふと誰かに見られているような気配を感じました。気配を感じた先に目を向けると、直径40㎝程のヤマモモがあり、幹が縦に大きく裂けています。その裂け目から、黒いビー玉のような目玉が2つ。フクロウです。慌ててカメラを向けましたが、樹洞から飛び出したフクロウは、林内を滑るように飛び去っていきました。シャッターチャンスを逃し呆然としていると、先ほどの木の裂け目の奥で、何やら白いふわふわの物体が動いています。どうやら、このヤマモモの樹洞でフクロウが子育て中だったようです。邪魔にならないよう、センサーカメラを設置し、子育ての様子を観察させてもらうことにしました(撮影期間:4/23~5月末)。

親鳥はせっせとエサを運び、狭い巣の中になんとか体をねじ込んでヒナにエサを与えています。通常フクロウは2~4個の卵を産みますが、今回確認できたヒナは1羽だけでした。


ヒナが巣の中で羽ばたく練習をしたり、巣の外に出ようと樹洞の壁をよじ登る姿が頻繁に見られます。フクロウのヒナは卵から孵ると、ひと月程で巣立つそうですが、どうやら、このヒナは巣立ちが近いようです。

ついにヒナが巣の外に姿を現しました。全身がふわふわの毛で覆われています。

この動画が撮影された翌日(4/29)を最後にヒナはカメラに映らなくなりました。まだまだ幼さの残る姿で、上手に飛べないヒナですが、巣を離れ、親鳥から飛び方やエサの獲り方を学び、秋には独り立ちしていきます。

つい先日も林内を歩いていると、ふと視線を感じました。もしかすると、この親子が高い木の枝から、そっとこちらの様子を窺っていたのかもしれません。

2024.6.12 murata