以前の記事で造林の初期に行う定番のヤマ仕事を紹介しました。また、イレギュラーな場合に行う手入れも同僚が書いてくれました。今回は、いよいよ木を伐る仕事、間伐(かんばつ)について話します。
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ha当たり3000本で植えられた造林地
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人工造林では、植え付けの際には植栽木の成長競争を促し、また気象や病虫獣害による減少も見越して高い密度で苗木を植えます。
主伐(伐採)期にはha当たり1000本以下に仕立てますが、植栽時は3000本を基本とするのでその過密さがよく分かります。
とはいえ、よほどのアクシデントがなければ、これだけの高密度・本数が目標数まで自然に減ることはありません。
そこで、人為的に立木を伐って、林地の密度を下げるのが間伐です。
間伐では、単に密度・本数を調整するだけでなく、成長不良や形が悪い木を減らすことも目的とします。
林業界では、予定した数量に主眼をおく間伐を「定量的(ていりょうてき)間伐」、木の形質に主眼をおく間伐を「定性的(ていせきてき)間伐」と定義しています。しかし、実際にはその両方を目的にするため、その場合の間伐は「定性・定量間伐」と呼びます。
作業に先立ち、対象とする林で事前に伐る木を「選木」するわけですが、
例えば、間伐率20%の数値目標と間伐後のレイアウトを両立させるように木を選ぶには意外と難しいものです。
若いころはあれこれ悩みつつ選木していましたが、最近は気抜けつつでも数量とレイアウトをバランスよくまとめられます。なにごとも経験といったところでしょう。
さて、伐る木が決まればいよいよ間伐にはいります。
植えてから初めの間伐(初回間伐)は植栽後20~30年で行います。
作業時期としては、夏期をのぞく秋~翌春まで比較的長い期間行えます。
気候的に体への負担の少ない時期の仕事なので、「木を伐る、大変!」というイメージほどタフでない、と個人的には感じます。(ただし、あくまで相対的に・・・、です)
 | フェリングレバーでの木廻し |
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 | スリングで根元をずらす |
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間伐、それも初回間伐では、林の中が混みあっているのでイメージ通りに木は倒れません。周りの木に寄りかかってしまう「かかり木」という状態になります。
林業での労働災害では、「かかり木」を不適切に処理する際の事故が多く発生しています。
そのため「かかり木」を外すには、フェリンングレバーで木を回したり、スリングで根元をずらしたりと地道に行います。
慎重さに加えて実際にパワーも必要で、この工程は間伐で一番骨が折れます。
間伐前と後の林内の様子です。
この林は林齢26年、間伐前にha当たり2000本だった密度を1500本まで減らしました。
25パーセントの間伐率となります。
鬱蒼と暗かった林内に光が差し、風が吹き抜けます。実に清々しい!
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斜面を滑り落ちる間伐木(民有林) |
初回間伐では、木のサイズも小さく、形質もよくないので伐った木を林内に放置する「切り捨て間伐」と呼ばれる手法が一般的です。
従来、間伐後の林内は光が差して下層に低木が再生するため、放置した丸太は安定しつつ腐朽をまてばよかったのですが・・・。
近年は降雨の強さに加えて、シカの食害により下層の低木類が再生しないため、
放置した丸太が土砂とともに斜面を滑り、河川の近くではそのまま川に落下する風景をしばしば目にするようになりました。
そこで福岡演習林では、土砂の土留めを兼ねて伐った丸太を立木に掛けて集積しています。作業的にはひと手間かかりますが、林地への負荷を軽減できる「演習林仕様」は見た目にも優れていると自負しています。
林地に適切な施業を行うには、確立された知見を基に、立地や気象を変動因子にして柔軟に手法を組み合わせることが大事です。
そして、それを決定するには現場での経験に加えて知識のアップデートも必要です。
私自身、長く現場に立ち続けてきました。そして、体力の低下と引き換えにですが、技術とセンスが向上して、森林をコーディネートできるようになりました。
体力と知力のトレードオフ、年齢を重ねることの意義を考えさせられる昨今です。
(2025.6.16 D.O.)
(雑感:道具考)
写真に写るのは、間伐に使用するチェーンソーです。
この手の仕事では排気量40cc前後の中堅クラスと呼ばれる機種が適しています。
ちなみに林業用のプロフェッショナル機種のメーカーとしては、ハスクバーナー(スウェーデン)、スチール(ドイツ)の両社を筆頭に国産ではやまびこ社(共立・新ダイワ)が有名です。
このうちスタイリッシュなデザインで人間工学にも優れているハスクバーナーの人気が近年はとくに高いようです。
一方、福岡演習林では(私の好みですが)堅牢な設計で整備性に優れるスチールの機種が主力です。※写真手前2台がスチール製、一番奥が新ダイワ(やまびこ)製です。
チェーンソーはヤマ仕事をする人間にとって必須のツールです。
それだけにチェーンソーへのこだわりは人によって千差万別で、同業者とチェーンソー談議にふけるのは楽しいひと時です。