相次ぐ主戦の離脱で敗退した前回から半年。昨年の9月中旬に仕切り直しの第二ラウンドを始めました。今回も重機を一カ月レンタルしましたが、先ずは梅雨時期の大雨で傷んだ既設道の修繕から手を付けます。そのため、設計区間180mのどこまで進むかは、それが終わらないと見当がつきません。
| 雨で荒れた路面の補修 |
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| 狭隘部を拡幅する |
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果たして、既設道の修繕を終えて、本体工事に取り付いたのは月が変って10月となりました。半月足らずの期間では、始めのカーブ区間、約80mを目標とします。
とはいえ、このカーブは上り勾配のやや難所で、そう簡単にはいかない場所です。
| 掘削(くっさく)で生じる切土(きりど) |
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| 盛土(もりど)で路面を嵩上げする |
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一般的に林道の設計では、切土(きりど、地山を崩して出る土)と盛土(もりど、切土を路体の一部にする土)の量をなるべく等しくするのが良いとされます。
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切土と盛土の横断模式図、切り取った土を盛って路体にする |
こうすると、地山の切り取り(掘削)と伐採が少なくすみ、土砂崩れのリスクを下げられます。また、残土も少なくなるので残土処理のコストも抑えられます。
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斜線部分が切取りエリア |
切盛の収支ゼロが理想とはいえ、必ずしもそうとばかりはいきません。
今から設けるのは、いわゆるヘアピンカーブで、カーブのR(曲線半径)を確保するのに斜面に切り込んでいきます。
そのため切取り(掘削)の残土が生じるので、残土処理を解決しなくてはなりません。
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矢印の場所を残土で埋める |
幸いにこの現場では、始点(工事を始める最初の箇所)からすぐの谷を埋めて車廻しを設ける予定だったため、残土が捌ける見込みです。
残土を近くの場所で転用するのは効率的に施工するための工夫です。
V=60/Cm×q×E(m3/h)
この数式、土木設計・積算では馴染みの式です。おもに土工(掘削と残土運搬)に要する土量と時間の算出に使用する一般式です。
具体的には、上の写真のように、重機(バックホウ)で切り崩した土をダンプトラックに積んで、それを運搬して排土する工程を計算します。
今回使用するのは、コンマ3(バケット容量0.3㎥の意味)のバックホウに2tのダンプトラックの組み合わせ。
推定の土量は地山で約300㎥、これを崩すと嵩が増して360㎥の残土となります。上記の式で試算すると、360㎥の残土を捌くには60時間、1日実働6時間で10日間必要となります。
掘削のほかにも路盤の整地や盛土の転圧といった作業もあり、残り9日間では微妙なところです。
今回の主戦は私とMクン、それに4月から赴任したN班長も戦力として計算できます。若くガッツもあるMクンは「やる気十分です、ガンガンいきましょう!」と実に頼もしい。一方、インテリ派のN班長は「あ~、この日数で予定どおりいくのでしょうか」とさすが鋭い。対照的な二人ですが、不要なプレッシャーをかけるのは得策でないので、試算結果は黙っておくことにしました。
こうして残り9日間での勝負がスタートしました。
重機で斜面を崩し、ダンプで土を運ぶ単調なサイクルをひたすら繰り返します。多い日で50サイクルを超える日もあり、オペレーター、ドライバーともに頭はクラクラ、足はガクガクと疲労困憊です。
本体工事に取りかかってから4日目、10月5日の進捗です。
切り崩した土の壁を前に佇むMクン、彼はこの時「こ、これは終わらない…」と感じていたそうです。確かに無理っぽい感じはしますが、切土のピークを越したのを見切っていたので、メンバーを励ましながら土壁に挑み続けました。
10月11日、取りかかりから8日目にカーブ終点までの土工が終わりました。
20mの比高を設計通りにクリアしました。ここからはほぼ平らで、切り盛りゼロの区間となります。ストレスの少ない区間で、切土法面と路盤を整えながら進めるところまで進むことにします。
カーブ終点から約30m、全体のほぼ半分の土工が完了したところで、重機のレンタル期間が終わりました。
| 施工前 |
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| 施工後 |
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このカーブ区間は18%の上り勾配ですが、Rを大きくし、拡幅部もつけているのでダンプトラックでも安心して走行できます。(ただし、本格的な供用には砕石舗装が必要です)
自滅した第一ラウンドに対して、第二ラウンドでは何とか目標を達して1勝1敗に持ち込めたと思います。
どんな技術も使わないと失われます。そして、失われた技術は取り戻せません。工芸技術に就く知人は、こうした状況を「技術のブラックボックス」と呼んで憂慮しています。
この言葉、けだし名言です。分野が違えど、技術職場では共通する問題です。
前編でも書きましたが、福岡演習林での林道づくりは久しく行っていませんでした。その間に林道設計ができるのが私一人となっていたのも、この仕事を早く進めたい理由でした。たやすくはありませんが、技術の継承を始められたことにはひと安心しています。
道半ば。道づくりは息の長い取り組みです。この続きを後輩達が書いてくれるのを願っています。
(2024.1.11 D.O.)