道半ば


タイトルについて、比喩ではありません。本当にそのまま、言葉通りです。

林道は山林を管理するために必須のインフラです。福岡演習林では概ね路網が整っているため、ここ四半世紀以上、新たに林道をつくりませんでした。ただし、路網から外れた場所では森林の利用が進まない課題がありました。

福岡演習林第21~23林班は、そうした林道の未整備エリアの一つです。ここに新たに道をつける取り組みを始めています。

道をつくる手順としては、地図を眺めることから始まり、現地を踏査して、その後に正確な測量を行います。そして、測量結果から設計と積算を経て、機器材・資材を調達して実際の施工、となります。                                地味でオーソドックスな手法ですが、ソフト・ハード両面で相応のスキルが求められます。



今から9年前に予定地を測量して、基礎設計しました。
ただし、この時の設計には無理があり、大幅に見直す必要があったのですが、それを待たずに優れた施工スキルを持つ同僚が、そして私自身も異動となったため、計画が塩漬けとなりました。
簡易な作業道をつける(2021年11月)
一昨年に福岡に戻ってから、この仕事を早く手掛けたいと思っていました。幸いメンバーにも恵まれ、ほかの土木仕事をこなしながら施工への自信もついたので、満を持して再チャレンジとなりました。

ちなみに、所有森林内での話に限りますが、林道は一般的な公道に比べると規格の制約が小さく、比較的簡易につくれます。しかし、車両が安全に通行するにはキチンとした設計が必要です。昨年の秋に古い設計を刷新して、3月からいよいよ現場入りしました。
既設の林道の終点。突き当りの斜面の樹木を伐採することから工事開始です。
大木も多いので現地での打ち合わせにも力が入ります。

次々と立木を伐り倒し、丸太に刻んで、材をウインチで引き出します。
予定線形の約80m分に相当する区画での伐採と集材作業。ほぼ人力での工程でしたが、チームワークも良く、手際よく4日間で完了しました。
わがチームのエース、Mクン。
伐採後の感慨にふけっているのでしょうか、働くヒトの仕草って格好いいですね。
伐採前
伐採後
さて、樹木がなくなり地形がよく分かります。
この斜面に大きなカーブをつけながら高度をかせぐ線形を設計しています。
伐採が終わり、待望の重機(レンタル)がきました。
レンタル期間は1か月。既設道の補修をしつつ、本体工事箇所へ急ぎます。
3月の終わりにいよいよ本体工事に着手しました。
地山(じやま:自然地形のこと)を切り崩して道の形を削り出していきます。
この区間は多くの残土が出るのでダンプトラックとの共同作業です。

ここからが本番!やるぜ!!と意気込みましたが、好事魔多し。
この直後にMクンが、そして私もが相次いで新型コロナでダウンという事態に。
主戦を2人まで欠いた現場では重機が沈黙し、空しくレンタル期間が終わりました。
こうして、第一ラウンドは自滅ノックアウトで幕を閉じました。
そして、巻き返しを期す第二ラウンドは秋に持ち越しとなりました。
その結果はいかに...。続きはまた書きたいと思います。
 
    (2023.12.25 D.O.)                               

かすや資料館の紹介

 つい先日まで日中の気温が20℃を超える日もあり、「12月なのに暑いな」と文句を言いながら上着を脱ぎ捨て外仕事をしていましたが、今は若杉山の頂上に雪が降り積もるのを眺めながら、暖房の効いた事務所で当記事を書いています。

 今年も残すところ10日程となり、新年を気持ちよく迎えられるよう、福岡演習林の敷地内にある「かすや資料館」の大掃除を行いました。

かすや資料館

「かすや資料館」では、福岡演習林だけでなく、宮崎演習林や北海道演習林、戦前に日本各地や国外演習林で収集した資料を展示しています。

 現在、展示物のリストも大掃除中で、整理でき次第、当ホームページ上で一部リストを公開したいと思います。ひとまず、当記事では、「かすや資料館」で展示している資料を大まかに紹介します。 

錯葉標本
錯葉標本
 錯葉とは、植物の葉や枝を平らに押して乾燥させた標本のことです。
 
 3演習林(福岡、宮崎、北海道)と、かつて九大が所有していた国外演習林(樺太、北朝鮮)で採取した錯葉、全5,000点以上の中の一部を展示しています。

種子標本
 日本各地の種子を約200点展示しています。その多くが1920年代、今から約100年前に採取されたもので、1番古いもの(オオシラビソとナンキンハゼの2種)は1898年に採取されています。

材鑑標本
 写真の右側は、3演習林の主要な樹種を、木目を観察しやすいよう直方体に加工したものです。
 左側は、福岡演習林内の「里山林動態モニタリング試験地」を2014年に伐採した際に、採取した円板で、演習林の学生の研究で利用されました。

円板標本
 戦前に国内外から収集した幹の円板です。大きいものは人の背丈ほどのサイズがあり、この太さの木が立っている姿、そして、その木を切り倒す様子を想像すると圧倒されてしまいます。

剥製標本
 福岡演習林内に生息している動物たちの剥製です。手前の3頭はよく似ていますが、左から、アライグマ、アナグマ、タヌキです。この他にも、シカ、イノシシ、キツネ、テンの剥製を事務所玄関で展示しています。


 ここまで紹介した通り、「かすや資料館」は植物の標本が非常に充実しています。一方で、動物の標本は展示数も少なく、肩身の狭い思いをしているように感じました。
 そこで、今年の夏、ライトトラップ調査を実施し、昆虫の採取、標本作製に取り組みました。しかし、思ったように昆虫は集まらず・・・、動物標本勢の地位向上はまだまだ先になりそうです。

昆虫標本(作製中)
 写真の右側は、主にライトトラップで採取した甲虫をまとめています(Kさん作製)。中央の翅を広げたカブトの躍動感が目を引きます。
 左側は、蛾を展翅(翅を広げ、形を整えて乾燥)しているところです。

 来年こそは、完成した昆虫標本が「かすや資料館」に並びますように。

 それでは、皆様良いお年をお迎えください。

2023.12.21 murata


クロマッソマツのこと

 もう秋分の日だというのに、暑い日々が続きます。福岡演習林は1922年に開設し、九州大学の3演習林の中で最も歴史が長いです。このため、小生の興味を引く様々な遺物や痕跡が数多く残されています。たとえば、炭鉱の設備のようなもの、時代も用途も判らない遺構、よく分からない外国産樹種などなど。今日は最近気になったマツの樹についてご紹介します。

 クロマッソマツの樹形


 事務所の所在する団地には樹高数m程度のマツが数本植えられているところがあります。近くの看板にはよると、1986年に早良実習場(当時)にマツ枯れに対する抵抗性のある「クロマッソマツ」(仮称)が京都大学上賀茂試験地から導入され、それが1998年に現在の場所に移植されたのだそうです。クロマッソマツはアカマツに似ていますが針葉はやや硬いように感じます。このマツは日本の海岸に分布するクロマツ(Pinus thunbergii)と中国南部原産のバビショウ(Pinus massoniana)をかけあわせた雑種だそうです。聞き慣れない名前が興味をそそりインターネットで検索してみたのですが、不思議なことに全く情報がありませんでした。その後しばらくして、クロマツの「クロ」とバビショウの種小名マッソニアナの「マッソ」を足して「クロマッソマツ」と呼称したようだとK先生に教わりました。

 
今も残る看板

 マツ枯れはマツノザイセンチュウという線虫がマツ類に寄生することで水分通導を阻害しマツを枯死に至らしめる樹病ですが、日本では1905年に北アメリカからの輸入木材を介して上陸したとされています(国立環境研究所 侵入生物データベース)。福岡演習林の沿革を調べると、設立からほどなくして演習林と周辺地域では繰り返しマツ枯れが流行していたそうです。また、1970年代にはマツ枯れで全滅したアカマツ林跡地にスギ・ヒノキを植えた記録が残っています。このような経緯から、当時の福岡演習林ではマツ枯れに抵抗性のあるマツへの関心が高く、クロマッソマツの導入も試みの一つだったのかもしれません。

 

針葉はアカマツより硬い感じ


 しかし、九州大学にやってきたクロマッソマツもやがてマツ枯れを起こし枯死していったそうです。クロマッソマツの入手元だった京都大学の上賀茂試験地でも多くのクロマッソマツが枯死したことが報じてられています(岡本ら 1990)。マツ枯れは林業的に大きな損害をもたらすため、森林総研など複数の研究機関ではマツ枯れ抵抗性の品種開発が続いています。福岡演習林のクロマッソマツはこれまでマツ枯れの猛威をかいくぐってきましたが、これからも生きていくのか、あるいはやはりマツ枯れに感染してしまうのか、引き続き見守っていきたいと感じました。

 

<参考>

岡本憲和、渡辺政俊、中井勇、古野東州(1990)上賀茂試験地におけるマツ枯れについて:発生から1988年までの被害の経緯.京都大学農学部演習林集報1990 ,20:26-43


TN 2023.9.22

 

 

森林科学入門「里山林コース」



8/22から25までの3泊4日で、森林科学入門里山林コースが開催されました。

場所は福岡県糟屋郡東方の篠栗町にある九州大学福岡演習林です。



九州大学、早稲田大学から12名の参加がありました。
学部もさまざま

樹木の名前と特徴を覚えます。20種類くらいは簡単に覚えられます。



年輪ってどうやって調べるか知ってますか?


林業の現場で職員の説明を聞きました。


土のことを学びます。





川ではどのようなことがわかるのでしょう。
水質はどのように測るのかな?



川にいれたカゴにはカニが入っています。


山でたくさん学んで考えたのでつかれましたね!
バーベキューで疲れも吹き飛ぶ!?





その後の食事はプロが作ってくれました!
毎日作りたての食事が食べられるのはありがたいです!
美味しい!



さて、ここまで森林のいろいろな知識や、樹木、土、水の測り方がわかったところで、
班に分かれて自分たちの研究テーマを考えます。

研究テーマでたてた仮説に沿って、何を測り、比較すれば仮説が証明できるのか、研究計画を立てます。植物、土壌、河川生態学、生物地球科学と、異なる専門から森林と関わる大学教員たちが学生による適切な研究立案をサポートします。


研究計画に沿って自分たちで調査をします。
写真では、川と森を分断する構造物があったら土と水の生き物の種類は変わるのか、護岸工事のあるところとないところを比較する調査をしているところです。生態系をまたいでの生物同士の相互作用、非常に気になるテーマですね!



調査結果の解析をして、仮説の真偽を検討します。

最終日は研究発表です。今年もまたあたらしいことがわかりましたね。

ちなみに今年のテーマは、
  • 1班
    「護岸壁が周辺の生物に及ぼす影響」
  • 2班
    「なぜ常緑樹の葉は食べられないのか-人間の消化活動に着目して-」
  • 3班
    「サワガニの数、大きさは何に影響されるか」
  • 4班
    「造成地と自然な地の土壌の比較」
でした!

このように、森林科学入門里山コースでは、
とらえどころのない里山の自然を相手に、
知るべきことを自ら考え、仮説を立て、検討し、
科学に新たな知見を提供する手順を学びます。

昆虫調査

 

福岡演習林内の昆虫相を明らかにするために、ライトトラップを実施しました。

ライトトラップとは、昆虫が光に集まる習性を利用した採取方法です。

 

今回のターゲットは、甲虫及び蛾、それにセミです。

天候は曇り。風も無く、ムシムシしてライトトラップには良い条件です。

 

7:20開始。

このようにシートを張って、昆虫が飛来するのをひたすら待ちます。

最初は小さいバッタや羽アリが集まりだしました。



30分経過......ターゲットの昆虫たちは、まだやってきません。

まあ、こんなもんでしょう。

とは言いつつも、少し不安です(汗)



コガネムシの仲間 アオドウガネ

 40分後、ようやく甲虫が飛来しました。コガネムシ科の【アオドウガネ】です。

続いて、蛾やセミの仲間が数匹飛来しました。

 

蛾の仲間 シロスジトモエ


 

さぁ、これで盛り上がると思いきや、いっこうに飛来数は増えません。

 

結局、この流れのまま作業時間が終了となってしまいました。

今回のライトトラップで採集できた昆虫は、6種となりました。

 

少し物足りないモヤモヤ感で、後片付けに取りかかろうとした瞬間、突如Nさんが側にあったアベマキ(ブナ科の落葉広葉樹)をキーック!!

 
ノコギリクワガタ
カブトムシ
 

お見事!! カブトとノコギリをゲットしました!!

実は、このカブクワ、作業の時からこの木で樹液を吸っているのを皆で確認していました。

そのうちライトに飛来するだろうと思っていたのですが、結局、最後まで来てくれず。

きっと、食欲の方が勝っていたのでしょうね。

しかし、Nさんに目を付けられたのが運の尽きでした! 彼の脚力の前には為す術もありませんでした。

そんなこともあり、テンション上がったところで作業を締めくくることが出来ました。

 
ライトトラップは来月も実施する予定です。
 
 
 
 
2023.7.31 kaji